コリアン・フード・コラムニスト、八田靖史氏へ独占インタビュー (後編)
コリアン・フード・コラムニスト、八田靖史氏へ独占インタビュー後編です。
○テレビなどではあまり紹介されていないが、ぜひ食べてほしい料理は。
地方料理です。まずソウルから出ること!当然日本にも郷土料理があるように、韓国の各町に食文化があるので、山に行けば山の幸、海に行けば海の幸が豊富です。その土地ならではの何かを食べ歩いてほしいですね。
○例をあげるとしたら。
麗水(ヨス)です。万博が終わってからでもぜひ行ってほしい場所です。何を食べても美味しくて、他では食べられないものが多いんです。今だったら、ハモです。ハモの刺身としゃぶしゃぶは絶品ですよ。
また、「カンジャンケジャン」というワタリガニで作る韓国料理がありますが、麗水にはイシガニという小さな蟹(石蟹=トルゲ)のカンジャンケジャン定食を扱う店が密集した通りがあるんです。そこに行くと、メニューはカンジャンケジャンしかないので、座ると定食が出てくるのですが、真ん中にワタリガニの鍋、イシガニのカンジャンケジャンがあって、ヤンニョムケジャンというタレ味のものも出てきます。しかも、おかわり自由で、一人前が7000ウォン(約500円)なんですよ。なんて幸せな町だろうと思いました(笑)。
あとは、舌平目(シタビラメ)の刺身も美味しいです。サンチュや生野菜と甘酸っぱいタレで絡めて刺身和えにするんです。それをご飯の上に乗せてビビンバにして食べます。その刺身和えの酢が美味しいんですよ。麗水はマッコリで酢を作るんです。どの店に行ってもマッコリで作った酢があって、それが麗水における味の要になっています。麗水の食文化の底を支える調味料ですよね。マッコリシクチョ(マッコリ酢)と言うのですが、それ自体が独特なのに、さらに舌平目の刺身のような珍しいものになって食卓に出る…とても美味しいですよ。
○韓国料理の一番の魅力は。
元気になることです。健康にいいものが含まれているという意味と、韓国料理は量自体も多く、ほとんど一人で食べることがありません。みんなで料理を(取り分けないで)つつく姿勢が強いので、人とのコミュニケーションとしての役割も担う料理だと思うんです。人との交流はやはり元気になりますし、その場に韓国人がいれば、「うちの母の味は」という話題にもなりますし、そのような空間が魅力に思います。
○新大久保の今後について。
一昨年、去年とすごく盛り上がりましたが、ことしは各店舗、売り上げや客の流動人数なども縮小傾向にあるようです。ただ一方で店の数は増えているので、弱肉強食の時代が来るのかなという感触はあります。盛り上がりをどう長いものに育てていくのかが、今まで以上に大事になっていくでしょう。情報の発信などもそうですが、分厚い文化を創っていく時期に来たのだと感じています。たとえ谷があったとしても、これまでに出来たものがすべてなくなるわけではありません。韓国を見たという方が少なからずいるわけですから、それに乗って分厚い文化になっていけば、新大久保という場所が最先端の街として果たしていく役割は、まだまだ多いと思います。ブームと呼べるものから、はやく脱却することも大切だと思います。
○韓国料理を通して、どのようなことを伝えていきたいですか。
韓国料理は人に会いに行く料理だとよく言います。いろいろなものを通じての「通じて」の部分はだいぶ揃ってきたと思うんです。K-POPやドラマを通じて知る、そして裏の生の韓国人と会って、「あ、韓国の人たちはこういう人たちなんだ」という積み重ねこそが日韓交流であり文化理解だと思います。そういう素材は用意されてきたので、そこから派生する人との出会いみたいなものが濃密になっていくと面白いのではないでしょうか。一人ひとり、きっかけは違うと思いますが、僕はたまたま料理だったということですね。料理は入り口として開かれているものだと思うので、そういう部分を広めていきたいです。韓国料理を通じていろいろな人に出会ってください。
写真:八田氏の行きつけの韓国料理店「美名家」にて。
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2012/08/07 10:25 入力